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彼と結婚しようと考えだし、その意思を確認し合ったところで、やっとこさ、思い至ることになった。
我ながら、愚かなことだと思う。
結婚するということは、家族になるということなのだ。そして、自分の家族を相手に知られるということだ。自分が血のつながっている人間を、相手に会わせるということだ。
それを、私はわかっていなかった。理解していなかった。
「そういうところって、どういうところだ?」
先ほどの私の台詞の意味を問う彼に、私はゆっくりと微笑み、そして答える。
「あなたのその、人を人とも思わず、義を義とすらも考えず、それらを平気で切り捨ててしまうような、恩知らずで恥知らずなところよ」
彼は自分の故郷を嫌っている。いや、むしろ恥じてすらいる。自分にはもはや不要なものであると判断し、関係を断とうとしている。
まるで、今の自分はすべて自分の力によるものであると言わんばかりだ。
故郷から遠く離れたこの地で、一流大学を出て、一流企業で勤務している今の彼は、まさしく両親の扶助の賜物であるはずだ。その受けた恩義は、今では独り立ちした彼が、愛情として、感謝として、今度は返していってもいいはずだ。
でも、彼はそう考えない。
現在の彼は、地元にいる友人はおろか、親類すらもすべて、自分から切り捨ててしまっている。連絡が来ても応えることはなく、遮断し、関係を断っている。結婚の挨拶すらも私にさせようとはしない。自分もするつもりはないようだ。
勝手にする。用済みだ。無用の長物だ。関わるな。
自分はもう、ひとりで生きていける。
それが、彼だ。
「俺の聞き間違いでなければ……」彼は自嘲気味に告げる。「今のは、欠点なんじゃないか?」
「というより、欠陥ね」
そしてだからこそ、私は、そんな彼が……。
「でも、まあ、その通りだな」爽やかに笑い飛ばす彼。「まさしく、おまえの言うとおりだ」
彼を静かに見据える。
「私ね、小さい頃……、身体が弱かったの。学校よりも病院にいる時間の方が長いくらい。ずっと入院してた」
「……へえ」彼は不敵に笑う。「持病でもあったのか?」
「というより、奇病ね。お医者さんは原因がわからなくて苦労してた」
「奇病……、ねえ。治ったのか?」
彼は問う。
そして、私は首を振る。
「結局、その原因は、医者にはわからなかったの」
私は告白する。
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