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シガレットケースから煙草出してくわえると、すかさず近くにいたものが火をつけた。
……ふぅーっ。
不味い。
口の中に広がるメンソールの味なんて、なんの足しにもならない。
それでも半分ほど吸ったころ、相手の男がきた。
煙草を床に落とし、磨かれた革靴で揉み消す。
「ブツは持ってきたんだろうな」
「あ、ああ」
銀縁眼鏡の右のレンズを掴んで位置を直し、一歩、男の方へ踏み出す。
薄汚れたドブネズミを思わせるその男は、アタッシュケースを胸に抱いたまま、きょときょとと周囲に忙しなく目を向けた。
――港の廃倉庫。
中を照らすのは形ばかりの明かり取りの窓から差し込む月明かりと申し訳程度の裸電球。
外から響くのは、遠く、船の警笛のみ。
「か、金は用意したんだろうな」
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