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「ああ、ここに」
傍に控えていた黒スーツの部下がアタッシュケースを開けると、ぎっしりと詰まった札束に男は下卑た笑いを浮かべた。
「それではブツを確認させてもらおうか」
「あ、ああ」
視線は金に向けたまま、男がアタッシュケースを床に滑らせる。
足下まで滑ってくると、控えていた部下が取り上げ、俺の前で蓋を開けた。
中に入っていたのは、――鼈甲縁の、ボストン眼鏡。
そっと手に取ると肌に吸い付くように馴染む。
重さもまるで感じない。
さすが、……人間国宝級の職人技というべきか。
「レンズには最高級の硝子を使ってる。
度数は云われた通り。
どうだ?」
自分が作ったわけでもないのに、得意げな男が滑稽で笑いが漏れる。
そんな俺に男は喜んでると勘違いしているようで、満足げに頷いた。
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