ロリポップ

3/12
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ああ、ここに」 傍に控えていた黒スーツの部下がアタッシュケースを開けると、ぎっしりと詰まった札束に男は下卑た笑いを浮かべた。 「それではブツを確認させてもらおうか」 「あ、ああ」 視線は金に向けたまま、男がアタッシュケースを床に滑らせる。 足下まで滑ってくると、控えていた部下が取り上げ、俺の前で蓋を開けた。 中に入っていたのは、――鼈甲縁の、ボストン眼鏡。 そっと手に取ると肌に吸い付くように馴染む。 重さもまるで感じない。 さすが、……人間国宝級の職人技というべきか。 「レンズには最高級の硝子を使ってる。 度数は云われた通り。 どうだ?」 自分が作ったわけでもないのに、得意げな男が滑稽で笑いが漏れる。 そんな俺に男は喜んでると勘違いしているようで、満足げに頷いた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!