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腕を横へ一振り、ユイは自らの魔力が混ざった氷だけを操作し粉々に砕く。
しかし砕かれた氷も溶けることはなく、部屋の温度は下がったままだ。
ーーこれ、凍らせるのはいいけど処理に困るな…。
形無いものを『停止』させたなら魔力を霧散するだけでいいが、氷や魔力に影響を受けた冷気はそうはいかない。
仕方無しに氷の部屋から氷球を取り出すと、冷気共々圧縮して吸収させ、すぐに収める。
「さっさと話して下さい」
いまだ震えながら怯えた目でこちらを見るケルドフに少しばかりの罪悪感が顔を出すが、今はそんな事を気にしている場合ではないと強い口調で話を促す。
「こ、子供が…人柱になってる。違う!俺じゃない!俺が支部長として赴任した時にはもういたんだ!」
子供が人柱と聞き、ユイは『何か』がその子供であると直感する。
自分がその子供をどうするのかも。
「…どこですか?」
「部屋の中心の床の下に隠し階段がある」
「そう。早く開けて」
腰が抜けているのか、這うように動き始めたケルドフを後ろから見下ろすユイは、魔素が薄くなった影響について考えていた。
ケルドフはギルドの元とはいえ、上位に位置する実力があったと言っていた。
“アンノウン”から出てまだ魔物は見ていないが、現在はケルドフの実力でも倒せる強さなのだろう。
だが、生物が魔力を増やすのは身体の成長中が最も多い。
そして身体の成長は人より魔物の方が速いのだ。
ならば、魔素が循環を始めた影響は人より魔物の方が先に出る可能性が高いのではないか?
元々知っていた魔法についての知識と、《ワールド・レコード》で得た魔力の知識からそう判断したユイは、一人どうしたものかと悩む。
ガラガラガラガラ…ガタン
と、そこでガラガラと石を引き摺る音が途絶えたのを合図に脱線しかけていた思考を中断したユイ。
「ここを下りれば子供の所に行ける。…どうする気なんだ?」
「支部長さんは何も知らない方がいいでしょう?貴方は私をここには連れて来なかった。先にギルドに戻りいつも通りにしていて下さい」
そう言い残すと、この先にいる子供の事に思考を入れ替えつつ、現れた階段を下りていくのだった。
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