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北には世界でも最高峰の山脈が連なり、南側には遠浅の海岸が広がるドビスビッチェ国。
その最南端にある海沿いの小さな町パプスペリア。
一年を通して、晴れ渡った空が多く、心地よい潮風が気持ち良い町である。
この町に一人の吟遊詩人の姿があった。
吟遊詩人の名はマサヴィル。
町に流れる小川の畔でマサヴィルはギターを爪弾きながら、遠くを眺めていた。
そんなマサヴィルに、この町一番の荒くれ者であるキズカが、息使いを荒くし近づいてくる。
「おい吟遊詩人!」
キズカは剣を握りしめ、マサヴィルを睨む。
「俺にはマサヴィルって名があるんだが」
睨まれる理由に心当たりはあったが、マサヴィルは面倒臭そうに首を傾げ、キズカを見た。
なめ切った態度のマサヴィルと目が合ったキズカは、更に興奮し剣先を向けた。
「ふざけた態度だなオイ!今日こそやってやる!」
「はぁぁ・・・やれやれ昨日の報復だな。にしても真っ昼間から剣先を人に突きつける・・・物騒だなぁ」
見た目は、疑いようのない脆弱な体つきであり、虚弱体質そうな顔色をしているマサヴィル。
そんな男が、突きつけられた剣先を指先一つで、いとも簡単に払いのける。
当たり前のことのようにやってのけた後は、またもギターを弾き始める。
これだけで、マサヴィルが並の人間ではないことが分かるのだが、キズカは引くに引けなかった。
「う、うるさい!剣士が通用しないという言葉、撤回してもらうぞ!」
先日も同じ事が起こっていた。
剣士という職業が、この先通用しないとマサヴィルが言ったのが事の発端だ。
剣士を志す見習い剣士のキズカには我慢ならない言葉であった。
「何だよ。諦めてないのか?」
「当たり前だ!昨日は、暗くてよく見えなかっただけだ」
「ま、昨日は夜中だったから、見えにくくて当然だが、剣士として、その言い訳は惨め・・・」
「ぶつぶつ言うな。構えろ吟遊詩人!」
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