いじめと本音

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プールバッグの件があってから、リョウはできるだけゲンタと関わらないようにしてきた。 ゲンタはたまにヒロシを連れてリョウを誘いに来たが、殆ど断るようになった。 それでも、強引に誘われれば断りきれず、しぶしぶ出かけて行っては泣いて帰って来ることも何度かあった。 ところが、5年生の2学期を過ぎた頃から、リョウはゲンタと積極的に遊ぶようになった。 公園で遊ぶだけでなく、ヒロシと3人で駄菓子屋へ行ったりするようにもなった。 私の心配をよそに、リョウは毎日とても楽しそうにしていた。 帰ってから話す内容も、不安な要素は皆無だった。 リョウいわく、今は以前のようないじめは全くなく、ゲンタは優しいという。 半信半疑ではあったが、きっと彼も成長したのだろうと、前向きに考えるようにした。 道でばったり会えば、相変わらずニコニコしながら手を振ってくれるゲンタに、私もようやく笑顔を返せるようになった。 ところが後日、私はヒロシのママから衝撃の話を聞いてしまう。 ゲンタが、今はナオトという転入生をいじめているというのだ。 つまりは、ターゲットが変わっただけ。 ゲンタは成長などしていなかったのだ。 ヒロシのママから話を聞いた日、私はリョウに訊ねた。 リョウは、ナオトのことを知っていた。ゲンタが彼をいじめていることも。 知りながら、再び仲良くしていたのだ。 恐らく、自分がもういじめられないと解って、ゲンタを受け入れたのだろう。 私はひどく落胆した。悲しかった。 いじめられる側の気持ちが解るはずなのに、どうして平気な顔をして再びゲンタと仲良くできるのか。 ナオトいじめには絶対に加わっていない。そう言う息子を信じ、私は敢えて彼を責めなかったが、リョウは私の表情を見て、悲しそうな顔をした。
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