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その日以来、リョウは私にゲンタのことを話さなくなった。
誰と遊んだのかと尋ねても、「いろいろ」と素っ気ない返事をするようになった。
いじめで苦しんだ彼自身、いろいろ考えることもあるのだろう。
友達を選ぶ権利は息子にあるし、私はとやかく口を出すべきではない。
そう言い聞かせて、おとなしく見守ることにした。
やがて、リョウは6年生になった。
6年目にして初めて、彼はゲンタと同じクラスになった。
私はがっかりしたが、リョウは嬉しそうにしていた。
だが、夏休み明けからゲンタは度々学校を休むようになってしまった。
私は正直なところ、ゲンタが居ない方が良かった。
いつも誰かをいじめているような子と、クラスが同じになり接する機会が増えたことを、危惧していた。
それでも、リョウにとって模範的な大人でありたい、よい母でありたい気持ちが、私の本音を表に出さず、あたかもゲンタを心配しているかのように装わせた。
ところが今日、ゲンタが一週間以上学校を休んでいると聞き、思わず頬を緩めてしまった。
もしかしたら、リョウは気づいていたのかも知れない。
私がゲンタを嫌いながらも、リョウと付き合うことに理解を示す振りをしていることに。
だけど、お母さんは、ついに本心を顔に出した───。
やっぱりね、解ってたけどね。
リョウの瞳に浮かんだ哀れみが、彼の心を物語っているように思え、胸がキリリと締め付けられた。
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