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嫌な汗が背中を伝った。
バクバクと鼓動する心臓を押さえながら、私は恐る恐る尋ねた。
「どういうこと……?」
リョウは、探るような視線を向けた。
真実を言ったら、私が彼に失望するとでも思ったのだろうか。
「リョウ、ちゃんと話して」
できるだけ優しく促すと、リョウはゆっくりと頷いた。
「ゲンタのお母さん、ゲンタが小学生になった時に、何人かで会社を作ったんだって。仕事が凄く忙しくて、ゲンタがね、家にひとりで居る時が多いから、寂しいって。
だったら、『学校休んだら、お母さんが心配して仕事を休んでくれるんじゃない』って言ったんだ。
そしたら、ゲンタが『そうする』って」
なるほど、と私は妙に納得した。
ゲンタが愛想がよく人懐こいのは、寂しいからだったのだ。
彼が友達をいじめるのも、自身が抱く孤独感や、親に対する不満が原因なのかもしれない。
しかし、仮にそうだったとしても、それが誰かをいじめていい理由にはならない。
リョウの目に涙が浮かんだ。
「僕、いじめられたことを思い出す時もあって、ちょっとお返しのつもりで言ったんだ。学校休んじゃえばいいじゃん、って思っちゃったんだ」
私は深く頷いた。
かつてのつらい日々を思えば、それくらい当然だろう。
何のわだかまりもなく、いじめた相手を許せる人なんて、居ないのではないだろうか。
「僕のせいかな」
私は首を横に振った。
「そんなことない。リョウはそれだけつらい思いをしてきたんだよ。でもね、ゲンタが不登校になるきっかけを作ったのは、リョウだよ」
リョウの目から、涙がこぼれ落ちた。
私はその涙を親指で拭った。
「ゲンタね、何日か休んでも、お母さんが仕事に行っちゃうって、怒ってた」
「そっか」
「だから、きっと……ずっと休むことにしちゃったんだ」
涙が止まらなくなった。
リョウは肩を震わせて泣いた。
ゲンタが不登校になったのは自分のせいだと、ずっとひとりで抱え込んできたのだろう。
そんなことにも気づかず、私はゲンタの状況を喜んでいたのだ。
私が顔を緩めるのを見て、リョウはどんな思いだったのだろう。
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