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リョウの涙で、私はゲンタへの憎しみに支配され、大事なものを見落としていたことに気づいた。
意地悪で、乱暴なゲンタ。
リョウがいじめられるようになってから、私は悪いゲンタしか見ていなかった。
でも一方で、彼は明るく快活で、礼儀正しい。
リョウと仲良く遊んでくれた時期もあった。
ゲンタなんか居ない方がいいと思っていたが、息子が不登校になり、ご両親は一体どんな思いでいるのか。
自分のことしか考えず、そんな気持ちを抱いたことに、私は罪悪感を感じた。
もし、私が彼らの立場だったら……。
リョウが、不登校になったら……。
いろいろな思いが、頭の中を駆けめぐった。
私は初めて、本当にゲンタのことが心配になった。
この先ずっと不登校のままだったら、彼の人生はどうなるのだろう。
それに、リョウもずっと苦しみ続けることになる。
このままではいけない。
登校できるよう、私たちにできることをしなければ───そう思った。
だって、もうゲンタの願いは叶ったのだ。
私は先日、ゲンタの母が仕事を辞めたと、ヒロシのママから聞いていた。
だから、今はもう、寂しくないはずなのだ。
これ以上、学校を休む必要もない。
「ゲンタ、クリスマス会に出てくれるといいね」
リョウが真っ赤な瞳を上げた。
私は優しく微笑んだ。
「話してくれてありがとう。お母さん、リョウの気持ちを考えてなかった。ゲンタは、リョウの友達だから、心配なんだね。いじめられた時もあったけど、今は仲良しなんだよね」
リョウは驚いた顔をしてから、慌てて頷いた。
「ゲンタに会えたら、学校にも来てほしいって、伝えておいで」
リョウは、安堵したように口許を緩めた。
「うん。そうする」
パジャマの袖で涙を拭いて、彼は歯を見せて笑った。
その笑顔を見て、私はホッと息を吐いた。
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