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「お母さん。ゲンタ、一週間以上学校に来てない。公園にも遊びに来ないんだ」
「えっ、そうなの?」
私は驚いた。
快活そうなゲンタの顔を思い出すと同時に、「不登校」の文字が頭に浮かんだ。
危惧してはいたが、とうとうそうなったか。
私の心に、ある感情が芽生えた。
思わず顔が緩みかけ、慌てて頬を引きしめたが、遅かった。
リョウは、私の顔をじっと見ていた。
父親に似て丸く大きな目が、私の表情をしっかりと捉えていた。
私はドキリとした。
まるで、悪事の瞬間を目撃されたような気分だった。
視線が絡まると、丸い瞳に、深い哀れみの色が滲んだような気がした。
陰りのある表情を見せ、リョウは私からサッと顔を背けた。
───しまった。
感情がつい顔に出てしまったと、瞬時に後悔した。
母親の汚い心の内を見て、リョウは落胆したかもしれない。
私は大きな自己嫌悪に襲われた。
けれど、その一方で、仕方がないと思う自分もいた。
我が子にさんざんひどいことをしてきた相手が不登校になって、心から心配する親がいるだろうか?
あからさまに喜ぶのは失礼だとしても、ほくそ笑むくらい、許されるのではないか。
だって、いじめっ子が来ないのだ。
息子が平和に過ごせる環境を思えば、頬が緩んでしまうのも、仕方がないではないか。
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