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4年生の夏休み、ゲンタはヒロシを連れて、市民プールへ行こうとリョウを誘いに来た。
リョウは迷いながらも一緒に出かけて行ったが、案の定、2時間ほどして泣きながら帰ってきた。
何があったのと訊くと、リョウは何度も声を詰まらせながら話してくれた。
プールでしばらく楽しく遊んでいたが、リョウがトイレに行っている間に、ふたりが居なくなってしまった。
探しても見つからず、諦めてプールを出ると、建物の壁にもたれ、ゲンタたちがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
リョウが「帰るならひとこと言ってよ」と怒ると、ゲンタは「うるせえ」と怒鳴り、リョウのプールバッグを奪って、近くの木に投げつけた。
それが運悪く高いところに引っかかってしまい、木に登ったが、どうしても取れなかった。
リョウが木の上にいる時に、ゲンタは「こうしたら落とせるかも」と言って、木を揺らしたり蹴ったりした。
リョウがバランスを崩すと、「だっせぇ!」と笑いながらヒロシを連れて先に帰ってしまった。
そこまで話して、リョウは涙が溢れる目で私を見上げた。
「お母さん、ごめんなさい。プールバッグ、取れなくなっちゃった。ごめんなさいっ」
掠れた悲しげな声が、鼓膜を震わせた。
真っ赤に染まった瞳を見て、大きな怒りがこみ上げてきた。
どうしてリョウが謝るのか。
どうして、私の大事な息子がこんな思いをしなければならないのか!
私の中に、ゲンタに対する憎しみが生まれた。
これはいじめだ。許せない!
今すぐゲンタに文句を言いに行きたい衝動を必死に抑え、私は「リョウは悪くない」と息子をなだめ続けた。
リョウが落ち着いてから、私たちは虫取り網を持って、市民プールへと向かった。
もしバッグが取れなかったら、ゲンタの親に話しに行こう。
そう決意しながらプールの前まで行くと、大きな木の下で、釣竿を振り上げている親子がいた。
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