いじめと本音

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いじめのきっかけは何か。 それについて、以前リョウと話したことがある。 全く分からない。それが、彼の答えだった。 リョウは初め、冗談だと思ったようだった。 けれど、意地悪な行為は毎日のように続けられ、だんだんエスカレートしていった。 ある時リョウは、どうしてこんなことをするのかと、ゲンタに訊ねたそうだ。 すると彼は、しれっと「なんとなく」と答えたという。 原因などない。 ただなんとなく、ムカつくから。 なんとなく、いじめてみたいから。 リョウから話を聞いた私には、これがゲンタの真意に思えた。 周りの子たちは、きっと「また始まった」と思っていただろう。 ケンジの次は、リョウ。 歯向かえば自分の身が危ないから、見て見ぬふりをする。 リョウは言っていた。 ゲンタにいじめられることもつらいが、他の友達が誰も味方になってくれないことの方が、悲しいと。 幸いだったのは、ゲンタとはクラスが違うことだった。 いじめられるのは、主に登下校の時と、放課後。 そのためリョウは、やがて登校の時間をずらし、放課後は引っ越す前に遊んでいた公園まで足を運ぶようになった。 そんな息子の姿を見ていると、私は大きな罪悪感に襲われた。 引っ越しなんて、しなければよかった。 リョウに申し訳ない気持ちになり、気分が沈んだ。
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