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公園のベンチで鳴らない携帯を眺めて溜め息を吐いた。
「はぁ…帰ろ」
マンションまでの道のりを走った。
走って汗を流せばすぐに僕のくだらない気持ちは流れて忘れられる気がしたから。
息を荒げてマンションに着くと、エントランスの外にポツリと響が立っていた。
響は泣きそうな顔で携帯を握りしめてて、その姿に胸の奥がギュッと握り潰されたみたいな気持ちになった。
「響っ!」
「こうたろ…」
「何やってんだよ」
随分、素っ気ない言い方になってしまった。
内心本当は響が僕を待っててくれた事が嬉しくて堪らないのに、それを素直に表現するのが悔しくて、僕は響の手を黙って取ってマンションの中に足を進めた。
エレベーターの前、小さな女の子を連れてる親子連れがいて挨拶を交わした。
その小さな女の子が響を見上げて「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?」と不思議そうな顔をしている。
「お兄ちゃんが泣かせちゃったんだ、これからごめんねするから大丈夫だよ」
女の子に笑いながらそれだけ言って、僕は響の手をギュッと繋いだ。
響の冷たい手が握り返してくれた事に安堵してエレベーターに乗り込んだ。
「バイバイ!」
家族連れが降りたあと、しんと静まり返ったエレベーターは無機質な音で部屋の階に到着した。
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