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部屋に入ってリビングのソファーに響を座らせて、僕はそこに跪いて響の両手を包み込んだ。
「響」
ポロリと流れた響の涙が僕の手の甲に落ちてくる。
そんな姿に堪らなくなって僕は響を抱きしめた。
「響…ごめん、泣かないで」
「こうたろ…私、お父さんとお母さんにちゃんと話すから」
「…無理しなくていい」
その気持ちだけで十分だ。
この先の未来なんて、誰にも解らない。
僕は今、響と一緒にいられる、それだけで十分幸せじゃないか。
何を望んでいたんだろう、僕は。
「無理なんかしてない。でも…怖いの、反対されたら…私、どうしていいか解んない」
「…そうだね。もう大丈夫だよ、ゆっくり一緒に考えよう」
僕だって反対はされたくない。
かと言って今から医者になれる訳もなく、もし反対されたら僕のお先は真っ暗だ。
ふと、随分前に健太郎に言われた言葉を思い出す。
『響の人生はお前には背負えないよ』
本当にその通りかもしれない。
ただ付き合うだけの若い頃ならこれで良かった。
でも今は違う。
僕はもう響以外の人なんて考えられないし、響と付き合い始めてから結婚を意識するようになったのも事実だ。
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