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「老夫婦みたいだね。美琴達って」
友人は、私と樹を見てそう言った。彼女いわく、悪い意味ではないらしい。長年連れ添った夫婦のように、お互いに信頼し合っているように見える、そんな事を言われた。
同い年……二十歳の友人からみれば、私と樹は『老夫婦』になるのかもしれない。
樹と付き合い出したのは中学三年生の頃で、年月にして五年になる。進学の為、上京してからは一緒に住むようになった。今の年齢で、それだけ長く付き合っているのは珍しいとよく言われていた。
だけど、老夫婦のような関係は、長年の年月をかけて培ったのではない。出会った頃からそうだった。
樹は、物静かで無口だ。私は誰かと一緒にいて、会話がないと気まずくなって焦ってしまう。なのに樹とだけは、はじめて出会った頃から不思議と無言でいても平気だった。むしろ、お互いに何も話さず一緒にいる時間がとても居心地が良かった。
樹が何を思っているか、言葉にしなくてもなんとなくわかる。
――――ずっと、そんな風に思っていた。
1LDKの部屋のソファに、樹は座ってぼんやり窓の外を見ていた。
私は樹の隣に座って本を開いた。樹は何も言わず、私の膝を枕にして寝転ぶと目を閉じた。膝の上で猫みたいに寛いでいる樹をちらりとみて私は微笑んだ。
樹は、穏やかで少しのんびりしたいつもの口調で口を開いた。
「……なあ、美琴」
「んーー?」
私は本を読みながら、意識半分で返事をした。
「ずっと……ずっと考えていたんだけど」
「うん」
私は、本のページを捲る。
「別れたいんだ」
私の本を捲る指が、体が、凍りついたようにピタリと停止した。今、樹はなんて言ったんだろう?
視線を樹に向ける。
樹は、私の膝の上で目を閉じて寛いでいるままだ。
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