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──なぜ、わざわざ外国人の技師を呼んだのか。異人館だから優遇されているのか。
総司の問いに対して、ナガオは答えを口にしていない。遊佐はふてくされている総司のかわりに答えを求めた。
『この家を作ったのが英国のひとだから、むこうで作ってもらったんですか?』
型さえあれば、日本でもできそうなものを。遊佐の質問に、ナガオは苦笑いした。
『英国には洋館の修復のノウハウがあるというのが表向き。ほんとうは、日本の漆喰職人を呼ぶと、金がかかるからだ。コーニスだけで家一軒、新築できる金が飛ぶ。通りから見えない内装には、市の補助金は出ない。ぜんぶ、所有者個人の負担になるから、できるだけかかるお金は少なくしなければいけない』
ナガオの答えに、遊佐は満足した。合理的に理解できる回答だ。
『しばらくここから見ててもいいですか?』
遊佐が問うと、ナガオは片方の眉をあげた。
『今日は外での作業予定はないよ?』
『でも、興味があるんです』
遊佐は邸そのものに対してではなく、ナガオに興味があった。子どもにも隠し立てなく接する彼と、彼がこころを砕く作業。どうして、邸を『修復』しなければならないのか。
『更地にして、おんなじ見た目のを頑丈に建てるほうが安全だと思うんですけど。直すだけだと、余震でまた煙突が折れたりコーニスが壊れたりするんじゃないんですか?』
『君はいろいろと考えるんだねえ』
ナガオは言うが、遊佐にとってはひとごとではなかったのだ。
『自分んちが寺なんです。庫裡も古いから、大風吹くと瓦が飛んだり、雨が漏ったりするから、そのたびに直します。でも、地震があれば、ぜんぶぺしゃんこだと思います』
『だから、建てなおしたほうがいいって?』
遊佐はきっぱりとうなずいた。被災した家族を受け入れるのに、地震にも風水害にも弱い建物では、胸を張って貸し出せない。
遊佐はずっと寺の建物の古さが不満だった。同級生たちだって、そのことを面白がって遊佐をいじる。おばけの出そうな古寺の子のクセに、欧米人みたいな見た目をしていると。
内々の事情までは話さずにおいたのに、ナガオは思うところがあったらしく、ふぅむ、と息をつき、腕を組んだ。年若そうな彼だが、そうすると、いっぱしの大人に見えた。
ナガオはたっぷり一分、遊佐を見つめると、おもむろに口を切った。
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