十四

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 ナガオは、遊佐の抱いた疑問のすべてを、あたかも知っているかのようだった。少し、苦いものをふくんだ微笑みで、初めて、子どもに対する姿勢をとった。膝に手をつき、屈みこんで、目を合わせる。 『お寺は、仏さんを拝むところだろう? 古いお寺には、昔のひとのこころが息づいている。寺の建物を大事にするのは、これまでの多くの檀家さんたちの信心を大事にするのと、いっしょだと思うよ』  信心。難しい単語だった。でも、なんとなくわかった。 『ひとのこころはね、小さなパーツで積み木のように複雑に組みあげられたものなんだ。ひとつでも欠ければ、かんたんにバランスを崩してしまう。信心というのは、こころの土台にあるような、檀家さんにとっては欠けてはならないパーツだ。その信心のよりどころである古いお寺を壊して、新しく建てなおすのは、パーツを引っこ抜いて、空いた隙間に無理やり別のパーツをねじこもうとするようなことじゃないかな』  君のこころの土台には、仏さんというパーツはないんだよね? だから、かんたんに、古いから壊してしまえと言えるんだ。と、ナガオはそう言っているのだ。遊佐の考えを否定はしない、だが、決して肯定もしていない。  頭から冷水を浴びせかけられた気分だった。気づかないようにしていたのだ、いままで。遊佐はナガオの言うとおり、自分の家が──この場合、建物ではなく家庭そのものが──好きではなかった。それが、遊佐が成長するために仏が与えた試練なのだとしたら、とんだお節介だ、よしてくれとさえ、思っていた。  ナガオは曲げていた腰を伸ばし、うーん、と、うなりながら伸びをした。両腕を大きく広げて、空をあおぐ。そうして、脱力した。 『こう考えてごらん。逆に言えば、ひとつのパーツをもとの場所に戻せれば、一度バランスを崩してしまったこころだって、うまく積みなおせるかもしれない。ひとは、元気になるかもしれない。……僕はね、どんなささいな可能性にでも、賭けてみたいんだ。異人館は、重要なパーツになれる存在だ。少なくとも、ここにいるなかで僕だけは、そう信じて修復に携わっている』  総司に言ったのと同じことを、ことばをかえてくりかえしだだけだ。頭ではわかる。だが、二回目の言いかたのほうがより、遊佐の胸には鋭く刺さった。
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