十三

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 彼の声がよほど大きかったからだろうか、我も我もと、ひよりたちのもとに信徒が集まりはじめた。どうやら、ふだんの礼拝で見かけたことのないひよりが、前任者の司祭とふたりきりで話しこんでいたのは、かなり周囲の目を引いていたらしい。みんな、興味津々といった体で会話に参加して、たちまち水原司祭とひよりのまわりには大勢の信徒が輪を作った。  この少女はいったいだれで、今日はどういった縁でこのホームパーティに現れたのか。どこに住んでいるのか、年はいくつなのか。学校はどこで、身長はいくつで、いっしょに会場に連れてきた若い男性はだれなのか。  信徒たちの興味の赴くままに質問攻めにされ、ひよりは一所懸命にそれに応じた。嘘はなるべくつかずに、でも、綾子のプライベートで知らない内容のときは、ひよりのことを交えて答えてみる。  時間は、めまぐるしく過ぎていった。三十分過ぎるころには、安芸子に勧められて、飲み物と食事も少し摂った。質問攻めもだいたいやんで、ふつうの世間話が交わせるようになった。 「これ、飲みなよ。おいしいよ」  安芸子の次にやってきた男性が、二杯目のグラスを手渡してくれる。薄く黄緑に色づいた透明な液体は、しゅわしゅわと泡だっている。ノンアルコール・ワインだろう。  ひとくちふくみ、苦みに閉口する。ぶどうジュースの甘みもほのかにはあるが、舌に残る炭酸の苦みが甘みを遙かに上回っている。ひよりには、少々、大人の味だったようだ。  ちびちびと口をつけながら、遊佐を探す。まさか、ひよりを置いて帰ってしまうことはあるまいが、どこか──たとえば、廊下や建物の外など──別の場所で時間をつぶしている可能性が捨てきれない。  なかなか遊佐の姿を見つけだせずにいると、ワインをくれた男性は、そわそわしているひよりのようすにも気づかずに、己の趣味の話を長々と語りだした。模型か何か造形物について話しているのはわかったが、専門用語が多く、ついていけない。あいまいな笑みを浮かべることでお茶を濁していると、すっ……、と、脇合いからさしだされたものがあった。  またもやワイングラスだ。だが、グラスを満たしているのは、とろりとした赤紫のジュースだった。甘ずっぱい芳香が鼻先をくすぐる。ベリー系の香りだ。 「クランベリーとブルーベリーのミックスジュースだそうだ。君のお子さまな舌には、ワインなど、まだ早いだろう」
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