十三

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 適当な言い訳をしようとして、遊佐と目を合わせて、その栗色の瞳にからめとられる。ひよりは目をそらせなくなった。どんな嘘をつけば、この瞳を騙せるのか。嘘なんか、このひとにはつきたくないのに。  何もかも見透かしてしまいそうな淡い色の瞳は、まっすぐにこちらを見つめている。 「遊佐さん。わたし……」  ことばを探す。この気持ちのもっとも適切な表現は、なんだろう。遊佐はひよりを急かさずに、じっと先を待ってくれている。いちばん嘘のない、素直な感情を音に乗せる。 「わたしは、このお屋敷が怖いです」 「ひとりきりが怖いということか?」  かぶりを振る。そうして、さんざんためらってから、笑われるのを覚悟で、不確かなことがらを口に出す。 「悲鳴が聞こえたんです、聖母像から。気のせいだと思いたいんですけど、昨日、初めて礼拝堂に入ったときに、あの像、叫びながら近づいてきて」  返答を待つあいだが恐ろしかったが、さいわいにして、遊佐はひよりの発言を笑ったりバカにしたりはしなかった。何か思うところでもあるのか、神妙な顔で問いかけてくる。 「……今日はここに泊まらずに、別の宿泊場所を探せるか?」  ひよりはさっと考えをめぐらせたが、答えを出すのに、そう長い時間は要らなかった。 「無理です。手持ちのお金は交通費と少しくらいで、ホテルに泊まるほどの余裕なんてないです。第一、この時間帯からチェックインできるホテルってあるんですか?」  ひよりは腕時計を確かめた。教会を出たのが九時前。いまはすでに九時をまわっている。一般的なホテルであれば、フロントすら閉まっている時間だ。だが、遊佐はひかなかった。 「ビジネスホテルなら割に安価だ。素泊まりなら五千円もかからない。時間についても問題ないだろう。午前零時を過ぎてもチェックインできるホテルはある。宿泊費は綾子が投げてよこした金を使えばいい」  ひよりは少しむくれた。その話は、昼間にもしたつもりだった。 「綾子のお金には手をつけたくありません。そのままそっくり返してやるんですから!」  語気も荒く言うと、遊佐は車のエンジンをとめ、ハンドルに片肘をもたれた。 「ホテルで無くても、選択肢はある。管理人の竹本夫妻を頼るのも手だろう。夫人はずいぶんと君に親身だったじゃないか。彼女に泣きつけば、一晩くらい泊めてくれるはずだ」
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