十三

19/25

163人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
 いまどきでは古風とさえ言える考えかただったが、遊佐は本気でそう考えて口にしているようだった。  ひよりはなんだか事態がうまく把握できなくて、泣きそうになった。自分が求めていたのは、『今夜、翡翠館に泊まらないで済むこと』でも、『遊佐といっしょにいること』でもない。はっきりとはわからないが、たぶん、違う。 「……遊佐さんから見たら、わたしは子どもなんですよね? だから、そういうコトなんか、逆立ちしたって起こりません。そんなの、わたしたち当事者さえ理解してればいいことなんじゃないんですか?」 「君はなんにもわかっていない」  遊佐は額に手をあて、椅子の肘掛けにもたれ、カーテンの開いた窓の外を見遣った。 「そんなことありません! ちゃんとわかってます」 「いったい何を? 『君は子どもだ』と、わざわざ口にしなければならない男の心理も、『ちゃんとわかって』いるって?」  ふっと、遊佐は口元をたわませた。 「教会のホームパーティで、なぜ男にからまれたか、『ちゃんとわかって』いるのか?」  ふざけた調子で、わざとひよりの語彙を真似てくりかえし、遊佐は目を伏せ、なおも頬をひきつらせて笑う。 「その格好は、一歩間違えば、非常に扇情的に映る。それなのに、君は男の視線に慣れていないんだ。目の前の男が何を見て、何を考えているかも知らずに、短い丈のスカートで平気でその場に屈みこむし、大きく胸ぐりがあいているのに深々とお辞儀をしてしまう。はっきり言おう、目の毒だ」  ひよりは反射的に胸元をおさえた。 「似合うからと、そんな格好をさせた俺にも責任はあるが、君がここまで己の性に無自覚だとは考えていなかった。自分に向けられる視線にも気づかず、自分が振りまいている感情にも鈍感だ」  目を閉じたまま、遊佐は額にあてたのとは反対の腕をあげ、ベッドを指さした。 「どちらでも、好きなほうを使え。クローゼットにホテルのガウンがあるから、バスルームで着替えるといい」  投げやりに言うと、自分は椅子に深くもたれ、両手の指を組み、膝のうえに落とした。仮眠でもするような姿勢だ。ひよりは戸惑ったが、言われたとおりに着替えると、スーツケースが立てかけられたほうではなく、窓に近いほうのベッドに潜りこみ、遊佐に背を向けて横になった。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加