十三

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「君が違和感を覚えていないのであれば、伝えたところで無駄な情報だろう。感謝されるどころか気味悪がられるのであれば、積極的に話す動機などなくなる。くわえて俺自身、自分の目で見たものなら信じられるが、ひとのことばはあまり信用できない性質でね」  トゲのように、遊佐のことばが胸にひっかかる。もどかしい。このなかに、いまの遊佐の発言のどこかに、ひよりが求めていたことばがある。慎重に慎重に選り分けていって、ひよりはからだから力が抜けるのを感じた。  ──これだ、見つけた。 「……遊佐さんは、じゃあ、わたしの言ったこと、信じて、くれるんですか?」  たどたどしく発せられた問いに、遊佐は肩をすくめる。 「信じるも何も、俺にとっては既知の情報だ。たとえ、君と俺とで見えかたが違っていても、あの像には何かがある。そこまでなら、共通認識と言っていい」 「そっか」  つぶやいて、ひよりは倒れるようにベッドにつっぷした。『遊佐といっしょにいたい』でも、『翡翠館に泊まりたくない』でもない。ひよりは、『遊佐に信じて欲しかった』のだ。それが、いまになってしっかりとわかる。  そして、遊佐ははじめから、ひよりが嘘を言っているとも寝惚けているとも思ってはいなかった。自分の目で見たものから判断し、ひよりが危険かもしれないと考え、別の場所に避難することを提案した。自分といっしょに夜を過ごせば、悪評が立つ恐れがあるからと、最後まで、その案は口に出さなかった。遊佐ひとりのなかでは、どちらもきちんと筋の通った話だったのだ。 「遊佐さんは、説明が少なすぎます」  つっぷしたまま、くぐもった声で文句をつける。遊佐は聞こえるようにためいきをついた。 「世のなかでは、『幽霊』というイメージが先行しているからな。『幽霊』と言えば、まず若い女で、蒼白い顔か血まみれの状態で、白か赤のワンピースを着ていて、黒髪のロングヘアで、うつむきがちにうらめしそうに物陰に立っているものだろう。俺が見るのは、そんなものではないんだ」  だから、信じてもらえない。そんなふんいきを行間に感じとって、ひよりは次のことばを待った。 「もっと、ずっと穏やかで、ただ、そこに暮らしている。言ってみれば、同居人のようなものだ。なかには悪意を持つものも、ないではないが、大多数ではない」
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