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そして、桜が咲く頃がやって来た。
僕は一方的に桜を見に行く約束のメールを渚に送ったんだ。
きっと、あの桜を見たら、喧嘩をする以前の二人に戻れる気がしたから…
その約束の日、僕は指定した時間より少し早く堤防の桜道に向かった。
渚と見続けてきた桜道に着くと、僕は一本の桜の樹の下で渚を待っていた。
いつも、渚と座って話をする時はこの樹の下と決まっていたからだ。
少しむくれた面持ちで渚は現われるだろうな…
でも、きっとここで話せばわだかまりも解ける筈だ。
あの時の僕はそう信じていた。
しかし、約束の時間になっても彼女は現れなかった。
日が暮れそうになっても、彼女は現れなかった。
更に日が沈んで桜道がライトアップされても彼女は一向に現れなかった。
そして、ライトアップが消えて辺りが暗闇に覆われても、渚が現われることはなかったのだ。
次の日も僕は渚を桜の樹の下で待ち続けた。
…しかし、渚が来ることはなかった。
それでも、僕は待ち続けたんだ。
次の日もその次の日も、更に次の日も…
次第に桜の花びらは散っていき、桜の樹はすっかり寂しい姿になっていた。
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