愛しい傷痕

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彼は、闇よりも深い漆黒の髪を風に靡かせて牙をむいた。 賑わう夜の繁華街の、寂れた路地裏。 僕はその路地の先でその光景を横目で見ながら、人が来ないように見張っていた。 彼の食事を邪魔する者が来ないよう、誰かが偶然迷い込まないよう。 彼の主食は血液だ。 所謂、吸血鬼と言う生き物。 本やテレビでやるような、血を吸われたら同じく吸血鬼になってしまったり、奴隷になったりはしない。 本当にただの食事。 それも月に数回、ほんの少しの量。 血を吸われた人間はその記憶を失くしてしまうから、食事をしても警察に駆け込まれる心配はない。 けれど、食事の瞬間を見られたら少なからず騒ぎになる可能性がある。 だから僕が誰か来ないようにこうやって見張っている。
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