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「ごちそうさま。美味しかったよ。」
舌で自分の口唇を舐めながら彼が『食料』である見知らぬ女性に甘く囁いた。
女性は虚ろな目で彼を見つめている。
「さぁ、もう行きなさい。さよなら。」
彼の言葉に従うように女性はフラフラと路地裏からこちらに向かって歩いてくる。
僕は彼女に道を開けてその背中を見送った。
人混みの中、あっという間にその背中は見えなくなった。
誰も何も気付かない。
彼女の首に付けられた傷痕が食事の痕だなんて。
「さぁ、俺達も帰ろう」
彼が僕の傍までやって来て、儚く微笑んだ。
闇と同じ色の黒い瞳が僕を見る。
僕は黙って頷くと、歩き出した彼の後ろをついていった。
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