おやすみ

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「志織?」  気づくと、この足はピタリと止まっていた。  ジョーの声が。ジョーの顔が。グルグルとこの頭を巡る。  ……わかっている。わかってるのに。 「その天使の事、何も知らないくせにすごく惹かれるんだ」  あの高校に入ってから、私は人に興味を持った事なんて一度もなかった。  その人の事を知りたいなんて思ったことはない。それよか、その人のことを自分が知っているのか。いないのか。  それすらも考えた事なんてなかった。だって、どうでも良かったから。 「それなら、これからたくさん知っていけばいいじゃない」  と、お母さんはニッコリと微笑みながら私の手を握る。 「大事なのは、知りたいって気持ち。相手のことを、理解していきたいって気持ちよ? 志織にはまだまだ時間があるじゃない。焦らずにゆっくりと、知っていけばいいのよ」  __私には時間がある。  その言葉が、この心にチクリと刺さる。  お母さんに無いものを、私は持っている。それは、喜んでいい事なのか自分にもわからない。
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