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「懐かしいわね、中学校」
と、微笑むお母さんに涙を瞳の裏に隠しながら頷く。
コンクリートの校舎。夕日の差し込むグラウンド。
何一つ、変わらない光景に目を細める。
「お弁当を作ってくれたよね。大変だったでしょ?」
「そんな事ないわよ。だって、たまにしか作れなかったしね」
中学校を入学すると、お母さんの体調は悪くなる一方だった。仕事も辞めて、検査や治療で入院することも増えていった。
小学校は給食だったけれど、持ち込みの中学校ではコンビニを利用したり、校内に売店もあり不自由はしなかったけれどやはりお母さんのお弁当が恋しかった。
そんな私の気持ちに気づいていたのか、お母さんはたまに退院すると具合いが悪いのにお弁当を作ってくれていた。
「……たまにでも、すごく嬉しかった。ありがとう」
あの時は恥ずかしくて言えなかったけれど、本当はずっと伝えたかった。
そんな私に、お母さんは申し訳なさそうな顔をする。
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