一番のごちそう

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 うっそうとした森を抜けると、ふいに開けた場所に出た。  粗末な造りではあるが、住居らしき建物が見える。どうやらどこかの集落に辿り着いたようだ。  5日前にこのジャングルの捜索部隊として派遣された俺は、数人の隊員と共に任務に当たっていた。  だが、その2日後、突然の大雨に見舞われ、雨宿りする場所を探しているうちにはぐれてしまったのだ。  食糧はもうほとんど残っていない。元の場所に戻れなければ確実に餓死する――。  そんな不安にかられていたとき、ちょうどここに辿り着いたのだ。  腰に布を巻いただけの簡素な格好をした人々。おそらく現地の少数民族だろう。  集落の広場にあたる場所に女たちが集い、食事の準備をしているようだった。  俺は彼女たちに近付き、身ぶり手振りで会話を始めた。 『食べるものが欲しい』  すると、一人の女が一番奥にある家へと入っていった。  しばらくすると、年老いた老人を連れて出てきた。たぶん、その人物は長老か何かなのだろう。  俺は一礼すると、先ほどと同様に身ぶり手振りで話し掛けた。 『食べるものが欲しい』  すると、会話が通じたのか、老人はコクンと頷いた。  俺は思いがけない歓待を受けることになった。  現地の人々には、俺のような人間が珍しいのだろう。何やら話し掛けながら、俺の前に煮た魚や炙った肉などを並べていく。  出来立ての料理は久しぶりで、焼けた肉の香ばしい匂いが食を誘う。  俺はがっつくように食べ始めた。味付けはほとんどされていなかったが、空腹の俺にはこの上ないごちそうだった。
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