プロローグ 出会い

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それは唐突に起こった。僕は学校へ向かう途中で居眠り運転の車と接触したのだ。呆気なく僕は死んだ。 僕の人生はたった17年で終を迎えた。死んだ実感なんて沸くわけも無く、信じたくも無い。 しかし、目の前で横たわる人間は間違いなく僕だった。 今日は僕の葬儀が執り行われている。 棺桶に横たわる僕を実体を伴わない僕が見下ろす。何とも不思議な光景だ。  葬儀には家族、親戚、クラスメイト、ご近所さん数十人…子供1人の葬儀にしては結構な大所帯であった。  葬儀は淡々と進む。終始僕は、僕だったモノを見つめ続けた。 あまりにも熱心に見ていたのであろう。それに気づいたのはしばらく経ってからだった。 僕の体を火葬場に送るための霊柩車が到着した。その時、食い入る様な視線を感じたのだ。それは火葬場に着いてからもしつこく付きまとった。僕は視線の主を探そうと試みたが、とうとう見つけ出せなかった。誰かに見られていると思うだけで、どうにも居心地が悪い。  そんな思いから、僕は僕だったモノの最期を見届けず火葬場を立ち去った。何処に行けばよいのかアテがあるわけでは無い。  幸い火葬場の近隣には大きな寺院があった。小さい頃よく遊んだ思い出の場所だ。行き場の無い僕は懐かしさを携え境内に立ち寄った。  昔はこの木に登って遊んだ…寺院の柱に石で文字を書いて怒られた…など様々な記憶が脳裏を過ぎった。少し気になって柱を覗いてみると、あの頃のまま拙い文字で…と書かれていた。柱に手を伸ばしてみる。すり抜けてしまった。これは想定内だったのでさほど驚きはしなかった。ただ、寂しさが込み上げた。僕は本当に死んだんだなと。物に触れることすら許されない。ましてや、人の目に映ることさえ叶わないのだと痛感した。僕が感傷に浸っていた時、また視線を感じた。葬儀の時から付きまとっていた視線だと直感した。  最初感じていた居心地の悪さは無く、今はただ嬉しかった。僕の存在を見てくれる人、認可してくれる人。僕は視線の主に興味を持った。どうにかして会えないだろうか、会話が出来ないだろうかと考えた。  しかし、考えるまでもなく向こうから声が掛かった。これには僕も驚いた。 「ねぇ、お兄ちゃんは死んじゃったの?」子供の声だ。いつの間にか僕の隣に小学校低学年ほどの女の子が座っていた。    この出会いによって、僕と彼女の複雑で数奇な運命が絡まり始めたのである。
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