夏の夕暮れ

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あまりにも急だったのでしばらく呆然と立ち尽くしてしまった。 「お兄ちゃん死んだの?」女の子が同じ問いを繰り返す。僕は敢えてその問には答えず、なんでそう思うの?と返した。  すると、女の子は「さっき箱の中にも同じお兄ちゃんいたから。」と火葬場を指差した。なるほど、この子はカンが鋭いようだ。「それに…」女の子は言葉を続ける。「死んでる人は見慣れてるから」と。それはどういう事?と僕が聞き返すと女の子は語った。  女の子は自分の事をまひると呼んだ。まひるは物心がついた時から周りが見えないものを見ることが出来たらしい。要は霊感があるという事だろう。本人はよく分かってないみたいだったが、まだ子供なのだ仕方の無いことである。  僕はその後もまひるとの会話を楽しんだ。一見すると小学生の風貌だが、どこか物腰が落ち着いて、まるで中学生と話している気分にもなるほど大人びていた。  自然に会話は弾んでいった。そんな時、突然「お兄ちゃんには家族いるの?」と聞かれた。  僕には両親と妹がいた。残念ながら僕の妹は病気で8歳までしか生きられなかった。僕が死んだ今、両親の心情を考えれば…きっと言葉で言い表せるものではないだろう。それを考えると僕まで辛くなってきた。「変なこと聞いちゃったね、お兄ちゃんごめん」僕の変化に気が付いたのか悲しそうに言った。妹が生きてたらちょうどこのぐらいかと、2人の姿を重ねて感慨に耽ってしまった。  そんな僕をまひるは不思議そうに見つめてくる。僕は大丈夫だよと手を差し伸べた。だが、人には触れられない事を思い出し、引っ込める。しかし、まひるはその手を掴んだ。触れられる。僕はその事に驚きを隠せないでいた。  まひるは僕の手をしっかり握り「お兄ちゃん少し遊ぼ?」と言った。僕は半ば引っ張られる形で境内を一緒に歩いた。  その後僕は、隠れんぼや鬼ごっこ、けんけんぱなど、昔夢中になった遊びを何年ぶりかにした。楽しい時間というものはあっという間に過ぎていく。  そろそろ陽も傾き、帰宅のチャイムが寺院に響いた。もっと一緒に過ごしたかったが子供は帰る時間である。  「お兄ちゃん明日も会えるよね?」僕は勿論さと答え、約束として指切りげんまんをした。  ゆーびきーりげーんまーんうそつーいたーらはりせんぼんのーます!ゆびきった!    まひると交わした小さな約束が、しばらく僕の中にこだましていた。
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