記憶

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今日はとても暑いらしい。この日の日中温度は今年最高を記録したそうだ。肉体が存在しない僕は暑さを感じる事が無い。精々、汗を流しながら歩く人を見て暑苦しく感じる程度である。  僕は昨日交わした約束を守るために今日も寺院を訪れていた。ここでは蝉の鳴き声が木々の隙間から忙しなく聞こえてくる。最早大合唱だ。約束時間の指定が無かった為、朝から蝉の声を背に石段に座って待っていた。待てどもまひるが現れる気配は一向に無く、しばらくして昼を知らせる警報が鳴った。  ウゥー…警報機が近場にあるらしく寺院一帯には大音量で音が響いた。  待っている間、特に何をするわけでも無い。僕はぼんやりと目の前の景色を眺めていた。すると僕の視界に1人の男の子が現れた。帽子を被っていて顔はよく見えない。男の子は僕の2m程先まで近づいて立ち止まる。  ちょうど真っ直ぐ対峙する形だ。数分、いや数秒だったかも知れない。長時間向き合ってたようにも思える重苦しい沈黙。  僕は堪えきれずに君は?と質問していた。しかし男の子は答えない。  帰らなくていいの?お昼過ぎちゃうよ。やっぱり男の子は答えない。  しかし、少し間を置いて男の子が静かに呟いた。    「きっと僕は覚えてるはずだよ。」  周囲に蝉の鳴き声が響く。  僕は困惑した。全く意味が分からなかった。どういう事かと口を開いた時、遠くから「お兄ちゃーん!」と声が聞こえた。見ると、走ってこちらに向かってくるまひるがいた。  僕はすぐ視線を戻したが、そこに男の子の姿は無かった。
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