記憶

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僕は狐につままれた気分になった。男の子は何処に行ったのだろう。呆然とする僕に「どうかしたの?」と声が掛かる。まひると分かっていても少しビックリしてしまった。僕は何でもないよと言い紛らわせた。    合流した僕達は色んな事をした。夏場だったのでたくさんの虫を見つけた。ここで驚いたのが、まひるは虫に対して積極的だったことである。むしろ、僕の方が怖がっていたぐらいだ。  他にも境内の花を観てまわった。この寺院には植物が豊富に育っている。夏の風物詩である向日葵をはじめ、ハルジャギク、マツムシソウ、朝顔など種類は沢山だ。  僕は植物が好きだった。まひるに「この花は何?」と聞かれる度、僕は花の名前と、付属で花言葉を教えてあげた。すると、花に興味を持ってくれたのか熱心に聞いてくれた。  しばらく歩き、境内の裏手に回る。そこにはピンクと白の可愛い花が咲いていた。まひるはその花が大層気に入ったみたいで、摘んでみたり耳に指したりしている。何故か僕はその姿を懐しく感じていた。記憶の奥でこれと同じ光景を見た気がするのだが、どうしても思い出せない。もどかしさを感じつつも、まひるの楽しそうな姿を見ていると自然と笑みが零れていた。  「お兄ちゃん見て見て!」耳に花を指して、指には手作りの指輪が填っていた。まひるは照れくさそうにはにかんでいる。僕はすごく似合ってるよと頭を撫でた。嬉しそうににっこり笑う姿は本当に可愛い。僕は、まひるが時折見せる無邪気さが好きだった。  少し目を瞑ってて?と瞳に手をかざす。おとなしくそれに従うまひるの頭に冠を1つ。まだ開けちゃダメだよと、ある場所まで誘導する。  さぁ、目を開けて。池の水面に花冠を付けたまひるが映る。  まひるは目を見開き「シロツメクサ…。」と小さく呟いた。そして嬉しそうに水面を見ている。しばらく眺めた後「お兄ちゃんありがとう!」振り向いたまひるが飛びついて来た。僕は勢い余って後ろに転んでしまった。が、ここまで喜ばれると僕も嬉しい。しかし、僕は見逃さなかった。まひるがシロツメクサと呟いて一瞬だけ見せた悲しそうな顔を。  その日、まひるは花冠を外すことは無かった。なんでも、"お兄ちゃんが作ってくれたから外したくない"らしい。  それから帰宅のチャイムが鳴るまで、僕達は色んな会話を楽しんだ。    別れる際、お互いにまた明日と手を振りあった。    
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