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「お父さんはこれだから」
母は茶をすするながらぽつりと言った。
青山の家がダメとなると、アパートなどを借りての一人暮らしか、学校が斡旋する学生寮を使うことになる。
しかし、元々、白鳳大学には学生寮がない。今時、下宿屋のようなところもない。民間の学生寮は地方から出て来た学生に優先的に振り分けられていく。空き室が裕の番まで回ってくることはなかった。
となると、どこかに部屋を借りることになる。
やたっ!
念願の一人暮らしだ!
裕は色めき立った。
父さんと叔父さんの仲の悪さにバンザイだよ!
「仕方ないなあ、他に手はないか……」
渋々ながら、父は賃貸住宅情報誌を買ってきて調べた。
数ページめくったところでうなり出す。
「4年間……」
腕組みをして、手元の紙に何やら数字を書きつけた。
さすが書道家、走り書きとはいえ、紡がれる文字は見事だ。
そこに連ねられた数字と計算式、合算した数字にさらにかけ算を重ねた。
「だめだ」
父は断言した。
「だめ、って?」娘は問い返す。
「部屋は、借りてやれん」
父は母に紙片を渡す。
どれどれ、とひと目見て、母も父に倣う。
「だめね」
「ええーっ? だめって、何が?」
裕は両親を見比べる。
「ねえ、お父さん」
「うむ」
「だめなものはだめよね」
両親だけ納得していて、娘にはとんと伝わらない。
「だから何がダメなの!」
「部屋代と学費が想像以上にかかりすぎる。学校にはやれても、都内に部屋は用意してやれん」
うーんと父は渋い顔をした。
珍しく真剣な面持ちの様子から、冗談を挟む余地がないことだけはわかった。
「すまない、裕」
「えええーっ。そんなーっ! じゃ、じゃあ、私……進学できないってこと……」
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