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「ばーか、誰が行かせないって言った」
父はからっと言う。
「よく聞いてろ、部屋は用意できんが、学校にはやれると言っただろ」
順序が変わると印象もガラリと変わる。
「だって、父さん、ここから通学……」
できないよ、と言いかけて言葉を飲んだ。
片道2時間弱。毎日だとそれだけで4時間弱食われてしまう。一般の社会人が通勤時間でそれだけ費やす人がいるのは知ってる。わがまま言えないのもわかっている。
けれど……
「母さん」
「はい?」
「義姉さんに頼めないかな」
「何をです?」
「決まってるだろ、こいつの下宿。義姉さんとこなら学校とは目と鼻の先だ」
「あ、そうね!」母はぽんと手を打つ。
「義姉さんって、道代伯母さんのところ?」
「他にいないだろ」父は言う。
「母さんの実家だし、高輪からなら近い。道代さんとは懇意にさせてもらってるし、事情話して了解してもらえそうなら高輪だ。ダメなら」
「ダメなら……?」
「ここから通え。イヤなら進学止めろ」
「……伯母さん家のお世話になりたいです……」
裕はぺこんと頭を下げた。
変だな、合格したらいろいろ考えてやるって言ったの、父さんじゃなかったっけ?
変だなー。これがいろいろ考えるってことなのかなー。
わかってたけどさ。
腑に落ちないまま話は進み、合格発表の翌々週には、裕の荷物ごと伯母の所に身を寄せることになった。
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