第1章

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「ばーか、誰が行かせないって言った」 父はからっと言う。 「よく聞いてろ、部屋は用意できんが、学校にはやれると言っただろ」 順序が変わると印象もガラリと変わる。 「だって、父さん、ここから通学……」 できないよ、と言いかけて言葉を飲んだ。 片道2時間弱。毎日だとそれだけで4時間弱食われてしまう。一般の社会人が通勤時間でそれだけ費やす人がいるのは知ってる。わがまま言えないのもわかっている。 けれど…… 「母さん」 「はい?」 「義姉さんに頼めないかな」 「何をです?」 「決まってるだろ、こいつの下宿。義姉さんとこなら学校とは目と鼻の先だ」 「あ、そうね!」母はぽんと手を打つ。 「義姉さんって、道代伯母さんのところ?」 「他にいないだろ」父は言う。 「母さんの実家だし、高輪からなら近い。道代さんとは懇意にさせてもらってるし、事情話して了解してもらえそうなら高輪だ。ダメなら」 「ダメなら……?」 「ここから通え。イヤなら進学止めろ」 「……伯母さん家のお世話になりたいです……」 裕はぺこんと頭を下げた。 変だな、合格したらいろいろ考えてやるって言ったの、父さんじゃなかったっけ? 変だなー。これがいろいろ考えるってことなのかなー。 わかってたけどさ。 腑に落ちないまま話は進み、合格発表の翌々週には、裕の荷物ごと伯母の所に身を寄せることになった。
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