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「最初から我が家をアテにしてたでしょ」
裕一行を出迎えて開口一番、聞かされたのは、伯母・道代のこの一言だった。
向けられたのは裕ではなく、彼女の後ろに立つ父へだ。
つい、と目線を外したので、どうやら当たりまくり、遠くなかったようだ。
「そっちの家から大学まで通わせるだなんて、交通費もバカにならないもの。違う?」
父はだんまりのままだ。
「だから私は常々言っていたでしょ? もっと普段から弟と仲良くするようにって。そしたら、青山に住んでるあなたの弟に頼めたでしょうに。いえ、そもそもあなたたちが戻ってくればもっと良かったのに、いつまでも奥多摩に引っ込んで出て来ないんだもの。ねえ、わかってるの? 聞いてる?」
聞いちゃいなかった。
政は手土産を娘に押しつけ、さっさと家へ舞い戻ってしまった。
「お父さんはこれだから」
母はほうと息を継ぎ、こぽこぽと茶をいれた。
「というわけで、姉さん、この子をお願いします」
「そうね、わかったわ。じゃ、当面の間……1年間だったかしら」
「いえ、4年間」
「何、それ。聞いてないわよ、だって、あなた……」
「卒業まで、本当にご厄介になります。ほら、裕も、お礼を言いなさい」
「う……うん?」
「旦那の弟を青山から追い出して、あんたたちが戻れば、元通り親子三人、親元から通わせられるでしょ。てっきり私はそうするものと……」
「ホント、持つべきものは実家と身内ね」
母はずずずっと茶を啜った。
夫の後を追うように「猫が待ってるわ」とか何とか言ってさっさと帰ってしまった母の後ろ姿を見送りながら、裕は所在なくポツリと言った。
「私――ここにいて本当にいいんでしょうか」
「あらやだ、当然でしょ」
道代はカラカラ笑った。
「私とあんたの親同士の話はあなたに関係ないわ。違う?」
「それは、違わないんじゃないかと……」
「ううん、違うわよ。さっきはあれこれ聞かせてしまったから今さらだけど、裕ちゃんは安心してここで招かれてちょうだい。あなたの親がふらふらして、いつまでも自分達のつとめから逃げまくっているから文句言っただけ。いつものことだから気にしないで」
「そのことなんですけど……」
裕は視線を落とす。
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