第1章

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「何で、私の家は奥多摩なんですか?」 「何でって?」 「私たち、本籍は青山ですよね」 「うん、そうね。今、慎一郎君が住んでるでっかい家ね」 「長男が奥地で、次男が都会って、変ですよ」 「うーん、何で?」 「ホントは、父さんたちはずっと青山にいるべきで、叔父さんは仕方なしに移り住んだのかな、って、それならわかる気がするんです。だって、父さんと叔父さん、仲がイマイチ良くないもん。それに、父さんの性格なら、良いところは全部自分が独り占めしちゃうと思うんですよね」 「そうでもないんだけどね」道代は小声で言った。 「裕ちゃん」 「はい」 「あなた――あなたのお父さんと慎一郎君の関係とか……家のこと、どの程度聞かされている?」 「えっと、兄弟だけど、母親が違う」 「そうね」 「だって、一目瞭然でしょ。まったく似てませんもん、あの二人。アカの他人って言われた方が納得できる」 「そ、そこ? 気にするポイントはそこ?」道代はあんぐりと口を開けた。 「そのほかは?」 「うーん、ほか? 奥多摩と青山、家2つ持ってんのにビンボー。三人家族だけど私の上には兄がいた。もう死んじゃったけど」 裕はうーんと首をひねる。 「うちって変てこな一家ですよねえ……違います?」 「そうとも言えるような、言えないような……」あははと道代は曖昧に笑った。 「ま、その家庭ごとに事情も違うし、同じってことはほとんどないし。あまり気にすることはないわよ」 「そう……ですかあ?」 「そう。ま、裕ちゃんは、いつも通り、自分ん家で過ごすように生活してくれればいいわ。もっとも、あなたの家と我が家はルールが違うところもあるから、そこは合わせてもらわないと」 「もちろんです、居候ですから」 裕はぺこりと頭を下げる。 「宜しくお願いします」 「宜しくお願いされます、よ。1年か2年か4年かはわからないけど」 そして道代はため息をつく。 「その1年だか2年だか4年の間に、うちのバカ娘が片付いてくれるといいんだけどねえ!」 と、二階を見上げて嘆いた。
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