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しばらくすると社長は、仕事が捗っているのか知りたくなってきました。自分が見に行って確かめてもよいのですが、もし布が見えなかったらどうしようと思いました。
そこで社長は自分が行く前に、知恵の通っている専務を向かわせることにしました。この専務はとても頭が良いので、布をきっと見ることができるだろうと思ったからです。向かわせるのにこれほどぴったりの人はいません。
人のよいの専務は社長に言われて、詐欺師の家へ向かいました。詐欺師が空の機織り機で仕事をしている部屋に入りました。
「神さま、助けてください!」と祈りながら、両目を大きく見開きました。けれども、何も見えません。機織り機には何もないのです。
「ど、どういうことじゃ!?」と思わず口に出しそうになりましたが、しませんでした。
そのとき、「専務殿」と詐欺師が声をかけました。「どうです? もっと近づいてよく見てください。このもよう、いろいろな技術が使われていてすごいですし、この色合いだって美しくて、思わずうなってしまいそうでしょう?」
詐欺師はそう言って、からの機織り機を指差しました。専務はなんとかして布を見ようとしましたが、どうやっても見えません。だって、そこにはほんとうに何もないんですから。
「あのぅ、どうして何もおっしゃらないんですか?」と、詐欺師の片われが尋ねました。もう一人の詐欺師はからの機織り機で一生懸命働くふりをしています。
急に言われて、専務はあわてました。見えてるふりをしないとバカ扱いされ社長からの信用を失うと考えたのです。「あ……ふぅん。とてもきれいで、たいそう美しいもんじゃなぁ。」専務はメガネを動かして、何もない機織り機をじっくり見ました。「なんとみごとな柄がらじゃ。それにこの色の鮮やかなこと! このことを社長に伝えれば、社長もきっとお気にめすじゃろうなぁ。」
「その言葉を聞けて、ありがたき幸せです。」二人の詐欺師が口をそろえて言いました。
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