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ネクタイの噂がどんどんもり上がっていくうちに、社長も自分で見てみたくなってきました。社長はいてもたってもいられなくなって、たくさんの役員をつれて、二人のずる賢い詐欺師の仕事場に向かいました。
詐欺師の仕事場につくと、二人は一生懸命に働いているふりをしていました。糸を一本も使わないで、真面目に仕事をしているふりをしていました。
「さぁどうです、社長殿にぴったりな、たいそうりっぱな布でしょう?」と詐欺師はつづけます。
「なんだこれは? 何も無いじゃないか。」と、社長は思いました。
社長は自分がバカかもしれないと思うと、だんだん怖くなってしまいました。また、社長に相応しくないかと考えると、恐ろしくもなってきました。社長の一番恐れていたことでした。社長がトップで無くなるなんて、耐えられなかったのです。
だから、社長は詐欺師たちを見て言いました。
「まさしくそうであるな。この布がすばらしいのは、わたしもみとめるところであるぞ。」社長は満足そうにうなずいて、空っぽの機織り機に目を向けました。
「これは美しい、美しい。」役員たちは口々に言いました。
「社長、この布で作ったりっぱなネクタイを、近々行われるテレビ取材で披露したらいかがでしょうか」
と、誰かが社長に言いました。そのあと、みんなが「これは社長に相応しい美しさだ!」と褒めるものですから、社長も役員たちも嬉しくなって、大賛成でした。
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