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遥か遠くに、二人の人影が見えた。彼はそれを見て首を傾げる。
ひい、ふぅ、みい…。なるほど。
指折り数えて計算する。今日という日は特別な日だったかと。
ゆらりゆらり。彼らに近付き手を上げた。
「やぁ、幸せの象徴よ」
「やぁ、幸せの根源よ」
「やぁ、幸せの灯火よ」
彼の言葉に二人は嬉しそうに答えた。
二人は恋仲の男女だ。夏彦と七夜。腕を組み頭を夏彦の肩にのせた七夜がにっこりと笑う。
「幸せそうだね」
「幸せだからね」
「君のおかげでね」
夏彦も嬉しそうに笑う。あぁ、だめだ。二人の世界が出来上がっている。
彼は渋い顔で頷く。
幸せの象徴と呼ばれながら、幸せな二人を前にして渋い顔をする。そんな自分が滑稽に思えて、彼はため息をついた。
「君の幸せも祈っておくよ」
「……あー、よろしく」
彼は苦笑いを零して彼等にひらひらと手を振った。お辞儀をしながらすれ違う二人の背中を眺める。
幸せってなんだっけなー…。
彼は離れていく後ろ姿にそんな事を想う。
ふと手の平に力を込めると、その上で炎が丸く固まった。宙に浮いて燃えている。
それをトンと押すと、すーっと滑って二人の横に並んだ。
それに気付いて二人が振り返る。
「…この先は暗くて寒いから」
二人は再びにっこりと笑って手を振った。
……幸せってなんだっけなー……。
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