1.厄日

10/38
前へ
/310ページ
次へ
すっかり綺麗にして、トイレから飛び出す。かなりの遅刻…心臓はドキドキ、胃の辺りもシクシクしてきた。 エレベーターホールの、女子トイレの対面の階段を駆け上がると、途中で降りてきたあや美と行きあった。 「あ、芽衣子さぁん!どうしたんですかぁ?どこにいたんですかぁ?」 あや美の登場に、どうやら本部長の腹立ちは最高潮と知る。 「うん、ちょっと体調悪くて」 私は足早に階段を上りきってあや美の前になり先を急いだ。 「遅れてすみません」 会議室のドアを開け、戸口で深々と頭を下げた。 本部長は発言中で、他の誰も声をあげることもなく、集中していた。私はあや美と共にそっと着座した。 その後、私は本部長から徹底して無視された。 会議終了後、私はすぐさま本部長に駆け寄った。会議室からは潮が引くように人気がなくなっていた。 「何があろうが、ひと言言い置いておくことぐらいできただろう?あや美君にでもさ」 本部長の腹立ちは多少なりとも収まりつつはあったように感じた。あや美をあや美君と呼ぶところを見ると。ただ、まだ怒ってはいる。 「はい。すみません…体調が悪かったもので…」 言い訳にならない言い訳だった。 本部長は常日頃、女子従業員達の体調管理については厳しいものの見方をしており、己の体調管理は仕事の一環であり自己管理であると徹底していた。 「この際だから話しておくけど」 鼻息をふんと鳴らすと、こう前置きして本部長は言い放った。 「飯島課長から君を欲しいと言われている」
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加