3.不信

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幸運なことに、高速バスの席が取れ、今夜新宿から出発することになった。 普通に晩ご飯を食べて、お風呂に入った。発車時刻は9時半。支度して8時半には家を出ようと思っていた。 メークをして荷物を持ってリビングに顔を出すと、テレビを観ていた両親が驚いて一瞬固まった。 「えっ!芽衣子なに?帰るの?どこか出かけるの?」 母が素っ頓狂な声を上げた。 「うん。急だけど…会社の人にご不幸があって、お葬式は明後日なんだけど、遠いから今夜発つことにした」 嘘がスラスラ出てくる。私ってこんな人だったっけ? 母の『あらあらあら』と、父のオロオロ。私は『ごめんね』と一応な感じで謝って、『じゃあ』と、後も振り返らずに実家を飛び出した。 勢いつけて振り払わねば、あの両親になにを言いくるめられるか分かりはしない。 私はしんと静まり返った住宅街を急ぎ足で駅まで歩いた。 新宿まで乗り換え1回、およそ20分で到着した。発車までにはまだ早く、私はコンビニで、早川先輩へのお土産(といっても大したものはない)とお茶とチョコレート菓子を買いこんで、近辺のファーストフード店に入った。 早川先輩にはまだなにも伝えていなかった。明日会えるかどうかの約束ぐらい、取り付けておかなくては。 『早川先輩、ご実家は高松でしたね。急でご迷惑とは思いますが、是非お会いしたいのです。明日、ご都合はいかがですか?ご都合よろしければ、お住まいのご住所か会う場所を指定して頂けますか?』 携帯でなんでもできる世の中に感謝。私は、明日の帰りのバスを予約した。繁忙期にも関わらず、席が取れたのは幸いだった。
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