4.禍根

3/18
前へ
/310ページ
次へ
嘆息した早川先輩。 「ねぇ、ランチしない?」 笑顔になって言った。そろそろ正午だ。 気分を変えるのに良いかもしれない。私達は席を立ち、ホテルから出て暫く歩いた。 早川先輩は無言でいて、なにか考えているようだった。私は黙って先輩の半歩後ろからついて行く。 街中を暫く行くと、和食のレストランがあった。早川先輩は迷いなく入っていく。 案内されたテーブルにつくと、周りを見渡しながら囁いた。 「ここでね、高校生の時にバイトしてたの」 「へぇ、そうなんですか。やっぱり懐かしいですか?」 地元というのは、こういうのがある。 「人が変わっちゃってるけど、メニューとかそのまま」 早川先輩はクスクス笑っていた。 お正月だからなのか、それともいつもがこうなのか客足はまばらで、お世辞にも活気があるとは言えない。 「でもおいしいはずよ」 何に対する『でも』なのかは置いておこう。 私たちは同じ『きょうのオススメ定食』を注文した。 ほうじ茶が入った土瓶と湯呑み茶碗二つが乗った小さなお盆が置かれた。自分で好きなだけ飲めるみたいだ。 早川先輩が話し出すまで、さっきの話題は控えた方がいいと思い、別の話題を出した。 「先輩、こっちでなにかするのは決まってるんですか?」 お茶を飲み、さり気なく、でも興味のある話題を振ってみた。 「うん…まぁ、これからだけど、パート先をいくつか当たるわ。正社員はもう無理だから」 「え?無理って、年齢とかですか?」 「ううん、違うの。体壊してから、無理がきかなくなったのよ」 「そうだったんですか…大変だったのに、同じ東京にいて知らなくてごめんなさい。先輩にはあんなに良くして頂いたのに、私…」 「芽衣子さん、それは気にしないで。体のことは仕方ないことだし、まぁ、いずれ早晩こういう事になったんだと思うわ」
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加