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「早川先輩…」
「芽衣子さんが気にすることじゃないのよ。むしろ知らないでいてくれることが私や本部長たちの願いだったのだから」
事態を知る者を最小限に抑えるために、早期に収束させたということなのか。それでも、無実の先輩を懲戒解雇なんて酷すぎる。
「でも、先輩は懲戒解雇されたって…」
「うん、そういう事になってる」
先輩は、どうやって納得したのだろう。私には、いくら過去のこととはいえ、もし自分の身に起きたなら、きっとずっと納得なんてできないと思う。
「私、今度の会議で、この件を議題に上げようと考えてるんです。それで、先輩への疑いを晴らして、汚名返上したいんです。今回、先輩に会いに来たのは、実はこのためなんです」
私の思いを全て言葉にするのは困難だと思う。でも、ほんの少しだけでも、先輩に恩返しができたら…。
「芽衣子さん…ありがとう。あなたの気持ちはすごくうれしい…でも、それはもういいの。私は本部長には良くしてもらえたし、会社の体裁を守るために悪者になる事も今は納得してるの」
「だから、黙っていろと?」
「ええ」
確かに、わざわざ掘り起こしたって、結局なにも変わらないかもしれなかった。
上役の不評を買って、私は…飯島課長の話がないという事は、行き先もなく、居づらくなって退職という事になるだろう。最早、四方堂君を巻き込むことはできないな…。
私はなるべく熱くならないように、でも、真剣に訴えた。
「早川先輩。私は、自分のためにも、この件を追及したいんです。先輩には恐らく気が進まないのは百も承知でここに来ました。ご迷惑はおかけしません。だから、あの当時のことを全て私に話してください!」
お願いしますと、私は頭を下げた。
『頭を下げる時は下げられるだけ下げなさい』とは、早川先輩直伝の処世術。
「なかなか上手ね」
先輩は、いつも私の心の中を承知していた。なんでも見透かしてくる。
そして、いつだって私の味方をしてくれた。
ミスをして落ち込んだ時、『芽衣子さんには悪心がないから』と慰められた。『本当の馬鹿なんだ、私』と拗ねると、先輩は、拗ねた私の心を見透かしたように、『ちょっとそそっかしいだけよ』と言ってくれた。
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