1.厄日

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私は血の気の引く思いで、足早にオフィスに戻った。席に戻るとすぐ、あや美が席ごと寄る。 「本部長、なにか言ってました?」 私は口の端を曲げて、笑みのようなものを見せながら微かに首を振っただけで仕事に取り掛かった。部署の皆の耳がこちらに傾いているような気がしていた。 『私が悪いことに変わりはない…』 今日私は、会議で報告事項を一つ任されていた。だが、その報告は、任せた本部長自らが完遂した。私が戻ってから。 昼になり、あや美に裏の定食屋へと誘われたが、用があるからと断った。下腹の重い痛みは絶え間なく、話をするのも辛かった。 フロアの人間が粗方ランチタイムに出かけ、私はゆるゆると立ち上がる。へこみ具合は朝方の比では無かったが、とにかくなにか食べて薬を飲まないと、と気力を振り絞る。 ビルの出入口で空を仰ぐと、雨脚が弱まってきていたことに喜んだ。ただ、少しばかり風が出てきていた。 この分だと夜は冷え込むだろうと幽かな喜びもつかの間、憂鬱へと戻された。 街を歩きながら、各店先の飾りが目に入る。『あぁ、クリスマス…』と、大してテンションも上がらずにいた。 『四方堂君へのプレゼント…もう渡せないかな…』 四方堂君と知り合ってから、初めてプレゼントを買った。すごく悩んだけど、気軽に渡そうと決めていた。 用意したプレゼントは、決して高価なものではなかった。PC操作で目が疲れると、毎日のように呟いていた彼のために、アイマスクを買ったのだ。両面で素材が異なり、ホットにもクールにも使用できる。 私も欲しいくらいだったから、もうあげるのはやめて、自分で使おうかと考えながら歩いていた。
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