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「本部長は、仕方なく私を懲戒にしたのだと、その時打ち明けてくれたの」
「知っていた?そんなの余計に酷いじゃないですか!」
私の単細胞は、本部長への怒りで煮えたぎっていた。
先輩は、ここでクスクス笑いながら、私を抑えた。
「芽衣子さん。話がなかなか進まないわよ。サラッと受け流してちょうだい」
私は顔を赤くして、すみませんと俯いた。面目ない。全く成長していない後輩に、先輩も呆れたろう。
「…本部長はね、それまでの仕事ぶりとかを通じて、私の人となりを判断して信頼してくれたの。それは、部下を信じきる己を信じるという事なんだと、その時仰った」
先輩は、私が迷子になっていないか確かめるように言葉を切った。私は頷いて先を促した。
「だけど、それはそれなんだ、と。私への信頼が無実の証拠にはならないと…私を庇いきるのは不可能と悟って、本部長は私の言葉を無視するように、とにかく処分を急いだそう」
「先輩が退職するまでの間、暫くお休みでしたね」
「あれは自宅謹慎よ、表向きはね」
「表向き?」
「私へのなにかしらの接触を断つためだったんですって」
「あの時は急で、私は途方に暮れました」
先輩はあははと笑い、きっとそうだろうと思っていたわと言った。
「ごめんなさいね。芽衣子さんや事を把握していない同僚と話したり会うこともダメだと釘を刺されていたものだから」
「そういう事だったんですね…でもそれが、部下を信じてるということが、すみません、本部長を弾劾しないという理由と言うには弱い気がします」
私は率直に言った。
「もちろんそう。それだけではないの…これ、誰にも、本部長自身にも言わないで欲しいのだけれど…その時、本部長から退職金相当の現金を頂いたの」
「…へ?」
現金?お金?多分、数百万だよね。
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