4.禍根

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「私の精神的苦痛に対して、個人的に賠償をしたいと言って。受け取らなければ家まで押しかけると言われて、私は受け取った。正直、あれのお陰でかなり助かったわ」 それはそうだろう。私だって、突然解雇されたら、手持ちなんて微々たるもの。前職を懲戒解雇された人間が、そう安安と安定職に就ける訳もなく。すぐに困窮するに決まってる。 お金に困るなんて、私は絶対に嫌だ…。 「本部長は私の無実を知っていた。そして、私を助けてくれた。これなら納得できるでしょう?」 「はい。分かります」 やっぱり、本部長は本部長だ。鬼じゃなかった。だけど、どうしてそんなふうに…。 「これは本部長にしても想像でしかないらしいの。実はね、伊藤さんの後ろには黒幕がいるんじゃないかって」 「えっ?くっ、黒幕?まさか社内にですか?」 悪代官登場。 「そのまさか」 「まさかぁ…」 「ふふっ、芽衣子さんは幸せね。なんだかこの話をするのは忍びないわ」 ちょっと、私って…。 早川先輩の話はこうだ。 そもそも伊藤さんは駒の一つに過ぎなかった。 営業部との確執には、その上の常務と副社長、社長との関係が起因していた。 急激に、競合他社と大きく離された実績は、役員会で何度も叱責された。 営業部も同じく追及されたが、当の営業部長から情報漏えいを指摘された企画室には、言い訳できるほどの調査が成されていなかったため、ほとんどの責任を負わされたのは本部長だったという。 苦しい立場の本部長への追い打ちはすぐだった。伊藤さんの背信行為が露見したこと。 伊藤さんは素直に自身の行為を認め、誰とは言わず、正社員の助力で事を成したと話した。 誰の証言なのか、今となっては分からず終いだが、早い時期に誰かが、『早川さんは派遣社員と親密だ』と言った。 伊藤さんは誰かに取り込まれ、スパイにされた。本部長は、それが矢崎営業部長の配下、営業部の者ではないかと考えていた。でも、証拠も無ければ誰との見当もつかない…。
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