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「ねぇ芽衣子さん」
昨夜が仕事納めで、今夜が仕事始めだと明るく笑う女将さんのいる小料理屋。
狭いカウンター席に落ち着いた頃、改まって私を呼びかける先輩。
はい?と促すと、先輩は少し言いにくそうにしてから、口を開いた。
「もしかしてなんだけど…四方堂君と付き合ってる?」
おっとぉ…なんと、見抜かれてた?
「えっと、いや、そんなことはない、です、よ」
そうだと言ったようなものだ。嘘つくの、慣れてきたと思ったのに。
先輩は、ふふっと笑っていた。
「芽衣子さんが幸せなら別にどっちでもいいのだけど、あの頃、もしかしてと感じてたものだから」
「ははっ…私の片思いですよ」
私は話してしまおうかと迷ったけれど、もう終わった事だと考え直した。なかったことにしてしまおう、と。
「そうだったの」
「はい。それに、四方堂君はこの年末、婚約したんですよ」
すると、先輩は寂しく笑った。
「そっか…なぁんだ」
「え?」
「芽衣子さんと合うのになって、ずっと思ってたのに。残念だわ」
なんかすみませんと、なぜか謝ってしまった。私だって残念な気持ちでいっぱいだ。
先輩の追及を免れたい一心で、逆に私は尋ねる。
「早川先輩こそ、お付き合いしてた人は?そういう話、一度もしなかった気がしますけど」
先輩はまた、ふふっと笑った。思い出し笑いなのかな。
「芽衣子さんは気がつかなかったのね…私、いたわよ。ずっと社内に」
「えぇっ!」
本当ですかと、カウンター席の隣から、先輩の正面を捉えた。多分、目が血走っていたかもしれない。
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