4.禍根

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「経理の人」 言われてみれば思い当たる。 「は!わかった。真山さん。真山さんですよね!」 確か、先輩より一つ二つ年下ではなかったかな。優しげで静かな印象のひと。早川先輩と一緒にいる時、よく遭遇していた気がする。 「うん、そう。なんか静かだから、忘れ去られそうな人よね」 先輩は懐かしそうに話してる…これも過去のこと? 「…今は?」 遠慮がちに私は聞いてみた。なんとなく答えが分かっている質問だけれど。 「会社を追われた時に、きちんと別れたわよ。私からね」 「そうでしたか…」 なんか、悲しい…先輩はあの時、いろんな事を諦めなければならなかったのだ。 「今、後悔とかないですか?あ、すみません…」 不躾な問いだと思う。でも、聞かずにはいられなかった。先輩は、後悔なんてしない人だと、なにやら思い込んでいた節があったから。 いろいろ完璧で、優しくてキレイで…。そんな人は、人生に後悔なんてないんじゃないかと。 会社を辞めさせられたのは、本人にはどうしようもなかったこと。後悔とは違う。でも、彼と別れる選択をしたことは先輩自身の選択なのだ。 「後悔か…ないかな」 ない。そうなんだ…やっぱり、先輩はすごいな。私が唸っていたら、先輩も唸りだした。 「まぁ、後悔したくない、というのが本当のところよ」 「後悔したくない?」 「そう。そうやって、自分の人生は自分で責任負って、やれるだけのことをやってきたから」 先輩らしいな。私は、自分の人生に責任負えてるかな。自信ない…。 「早川先輩みたいになりたいです」 ボヤっとしていて、行き当たりばったりな生き方をしている私は、人生なんていう長いスパンで物事を考えたりしなかった。 「なに言ってんの!」 早川先輩が、パシッと私の背中に活を入れた。この感じ、懐かしい。 まぁここは笑っておこう。
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