4.禍根

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すると、先輩が急に真顔になった。ん…? 「今、ふと思い出した事があるんだけど…」 なにか引っかかっているみたいな感じだ。 「どうしたんですか?なにが?」 「あのね、私…実は、営業部のある人からしつこくされていた時期があったの。芽衣子さんが入る前よ」 早川先輩はすらっとしていて、きちんとした感じの人だ。清潔感と親切な人柄が滲み出ている印象がある。 男の人が一目で気に入るような、そんな気安い話し方も好印象で。 ただ一つ難があるとしたら、真面目すぎるところかもしれない。 先輩の話だと、その営業部の男性は、先輩が入社間もない頃からなにかと理由をつけて誘ってきたという。 真面目な先輩は、仕事を覚えることに精一杯という理由で断り続け、それが、3年近くも頻繁に繰り返されたのだと。 3年も経てば仕事も覚えただろうし、なぜ、その人との交際を受けなかったかと尋ねれば、答えは単純で、『好きになれなかった』のだと。 相手には、それとなく伝えて断ってきた。そして、3年近く経ったクリスマス直前、先輩は真山さんと付き合うことになったそうで、その事を伝えてようやくその人は諦めてくれたのだと。 先輩にとって、真山さんは唯一心安らぐ男性だったと言う。私から見たら、言っちゃ悪いが昼行灯のような人で、あ、居たんだと思うことが多かったけれど。ただ、悪い人には見えないと思っていた。 「それが、どうかしたんですか?なにか引っかかることでも?」 営業部のその人は、南雲さんという現在アラフォーで、性格的には押しが強く、自信家タイプなのだと先輩は付け加えた。 「う…ん、違うのなら、それはそれでいいのだけど…南雲さん、もしかしたら私を恨んでいたんじゃないかと思ったの」 自信家タイプの俺様野郎なら、振られた逆恨みなんて当たり前にしそう。ああ、やだやだ。私はモテなくて良かった。
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