4.禍根

15/18
前へ
/310ページ
次へ
「あ、そうか」 私は先輩の言わんとすることにピンと来た。 「分かる?」 「はい。早川先輩が派遣と親密らしいとの進言。その人かもですね」 先輩は、しっかりと頷いて同意を示した。 ならば、先輩が言うように、南雲って人は、振られた腹いせを長きにわたり腹に溜めていた。そしてそれを、絶好の機会とばかりに、誤解を招く情報と知って上司に告げた。と、あくまで可能性の話ではあるけれど。 今のところ、南雲さんへの疑いを晴らす材料はない。伊藤さんをどうにかして丸め込んだという人間が、もし南雲さんではないというなら、一体誰なのだ。 やはり、過去の禍いの根が残っていたからこそ、あのような行為に繋がるのではないだろうか。 自信家の面倒なタイプの男性が、早川先輩への復讐と上司のご機嫌取りのために、企てか思いつきか、たったひと言添えただけ。 そして、悪意の上司が事の正否を問わず、本部長を陥れるためにその情報を使った…。 もしかしたら、本部長と営業部長の間にも、禍根を残した事情があるのかもしれないと、私は感じてならなかった。 別れがたい思いを抱きながら、バスの時刻が迫り、バスターミナルへ。先輩とは、またの再会を約束し合って別れた。 東京への帰路は、長い思索に費やされた。四方堂君に連絡しようかと思ったけれど、やめた。きっと根掘り葉掘り聞かれるに決まってる。 深夜、暗い車内で眠れずにいた。 寂しい気持ちとやり切れなさが私を押しつぶそうとする。 人間が人間でいる限り、このような悪意と戦い続けなければならないのだろうか。それが人の道だと言うのなら、例えば人の道に外れる事とは、一体どんな事なのだろう。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加