4.禍根

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アパートのベランダから大家さんちの境界までは1メートルもなかった。 住んで一年目の夏、敷き詰めた雑草避けの砂利の間から、甲斐なく生えた雑草をちまちまとちぎっている大家さんを見た。 断続的に砂利を踏みしめる音がして、不審に思って窓から身を乗り出しベランダの下を覗いたら、大家さんのつるつるの頭頂部が見えて悲鳴をあげそうになったことがあった。 人間の頭だと分かって安心もしたが、それが大家さんだと気づいてもっと安心もしていた。 それで、大家というのは、こうやって資産の保全を黙々とやっていくのだから、結構大変なんだと理解した。 不労収入があっていい身分だなぁなんて思ったら申し訳ないと反省したものだった。 アパートの敷地内にも、狭いながらあちこちに植栽が植わっているが、わびもサビもなく、ただそこに植えてあった。 玄関側から建物の横を通る時は、乱雑な植栽を避けながらでもベランダ側に出られる。 防犯のためには、そう簡単に他人の侵入を許して欲しくはなかったが、このような安アパートに求められる防犯レベルではないと、とっくに諦めている。 願わくは、有事の際には大家さんを思いっきり呼ぶので、是非とも駆けつけてきて欲しいと願うばかりだ。 そんなことをポケッと考えていたら、突然、ベランダの向こうから声を掛けられ、心臓が飛び出しそうに驚いた。 「こんにちは」 「ひっ!!だれ!?」 私は窓から離れ、なぜかカーテンを体に巻き付けながら、声のした方を見た。 実は声で分かっていた。アイツだ。 「驚かせてごめん。なんか、うちの部屋からカーテンが揺れるのが見えたんで、来ちゃったよ」 「は?なに言っての?来ちゃったって…なんか用!?」 自分でも思うが、ちょっと大人気ない。 「昨日さ、いろいろ不愉快にさせたお詫びにと思って、これ、届けに来たんだけど留守みたいだったんで」 ソイツが白いレジ袋を掲げる。中には、なにか緑色のものが入っていた。 「え?」 ものを貰えると知ると、人ってちょっと警戒心が解れるのか。中身はなんだろうとか思っちゃってる自分がいる。
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